NFCとUWBの違いとは?AppleはUWBを今後どう利用するのか

    AirTag 紛失モード

    AirTag 紛失モード
     
    先日、iOS16.4ベータ3のコードに、デジタルの「車のキー」が、近距離無線通信(NFC)には対応しなくなり、超広帯域無線(UWB)対応のデバイスでしか使えなくなることを示唆する記述が含まれているとの情報をお伝えしました。
     
    そもそもNFCとUWBの違いは何なのか、現在Appleデバイスにおいて、両技術はどんな場面で利用されているのかをまとめてみました。そしてAppleは今後、UWBをどのように使っていくのかについても推測しています。

    iPhoneにおけるNFCとは

    Apple Pay
     
    iPhoneにおいてNFCは、主にApple Payで利用されています。対応するクレジットカードなどをWalletアプリに登録しておけば、iPhoneを専用端末にかざすだけで決済することができます。
     
    NFCには主に、ソニーが開発、日本で最も普及しているFeliCa、オランダ・NXP Semiconductorsが開発したTypeA、米Motorolaが開発、マイナンバーカードなどに用いられているTypeBという異なる規格があります。
     
    iPhoneは当初、TypeA/Bにしか対応していませんでしたが、iPhone7からはFeliCaチップを搭載、SuicaなどのFeliCaを利用した電子マネーをApple Payで利用できるようになりました。
     
    ちなみにiPhoneのNFC用のチップは、背面のカメラ近くに内蔵されているので、駅の改札を通過する時やApple Payでの決済時には、iPhoneの先端部分を端末にかざすと読み取りやすくなります。

    AirTag、「車のキー」もNFCに対応

    AirTag
     
    現在日常生活でiPhoneのNFC機能を使うのは、ほとんどがApple Payといっていいですが、紛失防止タグAirTagも、NFCに対応しています。
     
    AirTagをなくしてしまった時、発見してくれた人物がNFC対応スマートフォンをそのAirTagに近づけると、自分の連絡先情報が表示されるよう、設定することができます(紛失モード)。
     
    また冒頭でも触れた、iPhoneやApple Watchを車に近づけるだけで、車のドアの鍵を開閉する、エンジンをかけるといった動作を可能にするAppleのデジタルの「車のキー」でも、NFC技術が用いられています。

    UWBとNFCの最大の違いは通信距離

    ひととおり、iPhoneのNFCについて見てきたところで、次は超広帯域無線(UWB)を見てみましょう。
     
    NFCもUWBも無線技術ですが、最大の違いはその通信距離です。NFCは「近距離無線通信」という名称どおり、通信可能距離は数センチしかないため、NFCリーダーにiPhoneをかなり近づける必要があります。
     
    一方UWBの通信範囲は10メートル以内と、こちらも近距離ではあるものの、NFCに比べるとかなり遠くまで届きます。3.1MHzから10.6GHz(米国仕様の場合)という広い周波数帯域を使用し、障害物による影響が少ない点も特徴です。

    UWB、iPhone11への採用で再び注目を浴びる

    UWBは、当初は軍事用として開発が進められ、レーダーなどに使用されていました。2002年には米連邦通信委員会(FCC)の認可が降り、民生利用が開始されます。高精度な測距・測位が可能ということで、2000年代には次世代無線技術として大きな注目を集めたものの、対象となる電波帯が広すぎて各国での規格化が難航、製品への採用は進みませんでした。
     
    ところがAppleが2019年、iPhone11シリーズに超広帯域無線チップ「U1」を搭載してUWBに対応、同技術が再び脚光を浴びることとなります。

    iPhoneにおけるUWBの活用方法とは

    ではU1チップを搭載する、つまりUWB対応iPhoneでは何ができるのでしょうか。

     

    AirTagでの利用

    ひとつはAirTagでの利用です。AirTagは前述したように、NFC、2.4GHzのBluetooth Low Energy(LE)、そしてUWBに対応しています。UWBは誤差がセンチメートルレベルと、Bluetooth LEやNFCを用いた場合に比べはるかに精度が高いため、AirTagをつけた持ち物などの位置を正確に把握することができます。

     

    AirDropでの利用

    AppleはiOS13.1をリリースした際に、UWBによるAirDropに対応すると発表しました。つまりU1チップ搭載iPhone同士であれば、自分のiPhoneを相手のiPhoneに向けることで、AirDropの対象者を選択することが可能になったのです。

     

    HomePodとの連係

    HomePod Handsoff
     
    HomePod mini、そしてHomePod(第2世代)はどちらもUWBに対応しています。U1チップを搭載したiPhoneを近づけるとHandoff機能を使うことができ、iPhoneで聴いているオーディオをHomePodに引き継ぐ、あるいはその逆も簡単に行えます。

     

    車のキー

    繰り返しますが、Apple CarPlayの「車のキー」もUWBに対応しています。

    車のキーのサポートをUWBのみにする理由とは

    そして気になるのが「なぜAppleは車のキーにおいてNFCのサポートをやめ、UWBのみにしようとしているのか」です。
     
    考えられる理由のひとつが、車におけるUWBへの対応です。
     
    近年、鍵を使わないキーレスエントリーが可能な車が標準となりつつありますが、同時に増加しているのが「スマートキーリレーアタック」という盗難手法です。
     
    これは犯罪者が、スマートキーから常時発信されている微弱な電波を特殊な受信機を使って受信、その電波を増幅させて車の近くで待機している仲間に送信し、増幅された電波を受けた受信機から電波を送って車のロックを解除、エンジンを始動して盗む、というやり方です。
     
    UWBを使えばリレーアタックを防ぐことができます。というのは、UWBでは測距・測位が可能なためです。車とスマートキーの両方にUWB対応チップを搭載しておけば、互いの距離や位置が正確に測定可能となり、横取りされた電波によるロック解除が難しくなります。
     
    つまり将来的にUWB対応車が増えることを見越して、iPhone(そしてApple Watch)による「車のキー」を、UWBサポートへ一本化しようとしているのではないのでしょうか。

    デバイスの差別化要因となる?

    そしてもうひとつの理由として考えられるのが、デバイスの差別化です。
     
    現時点でU1チップを搭載しているのは以下のモデルです。
     

    • iPhone11シリーズ
    • iPhone12シリーズ
    • iPhone13シリーズ
    • iPhone14シリーズ
    • Apple Watch Series 6
    • Apple Watch Series 7
    • Apple Watch Series 8
    • Apple Watch Ultra
    • AirPods Pro(第2世代)MagSafe充電ケース

     
    つまり、iPhone SE(第2世代、第3世代)と、Apple Watch SEはU1チップを搭載していません
     
    AppleはiPhoneにおいて、Proシリーズと一般シリーズでは搭載するシステム・オン・チップ(SoC)やカメラなどで性能を差別化しています。
     
    今後、SEという形でiPhoneやApple Watchのリリースが継続されていくかどうかは不明ですが、最もローエンドなモデルにはU1チップを搭載しないという差別化が行われる可能性はあります。

     
     
    Photo:Apple
    (lunatic)

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    この記事を書いた人

    元某業界新聞社の記者。その後フリーライターとして各方面で執筆、英日翻訳家としての著書も多数。2014年から本メディアでライター、編集記者として活動中。アメリカ在住(現在は日本に滞在中)。iPhone使用歴は12年以上。

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