Apple、総務省令案の「端末値引き制限」に「差別的」と反対

    Apple 総務省

    Apple 総務省
     
    総務省は8月23日、携帯電話の端末値引きの上限を2万円とし、契約解除料を最大1,000円とすることなどを定める省令に寄せられた意見(パブリックコメント)の内容を公開しました。Appleは「差別的な影響を与える」などと、強く反論しています。

    Appleや各キャリア、Qualcommなどから67件の意見

    総務省は、6月22日から7月22日にかけて、「電気通信事業法の一部を改正する法律によるモバイル市場の公正な競争環境の整備に関する基本的考え方」と関係省令に対する意見の受付を行いました
     
    この省令は、5月に公布された改正電気通信事業法の施行に必要な具体的ルールを定めたもので、端末の値引き上限を2万円、契約解除料の上限を1,000円、長期契約者への優遇抑制、など具体的な金額まで踏み込んだ内容となっています。
     
    意見募集には、各キャリアや通信業界団体のほか、Apple、Qualcommの日本法人クアルコムジャパン、在日米国商工会議所など14法人と個人から、67件の意見が提出されました。
     
    総務省「電気通信事業法の一部を改正する法律の施行に伴う関係省令等の整備等に対する意見募集の結果及び情報通信行政・郵政行政審議会からの答申」2019年8月23日
     

    Apple「競争が抑制され、選択肢が狭まる」と反対表明

    省令の全体に対して、NTTドコモや楽天モバイルは、公正な競争が促進されるなどとして賛成の意見を表明しています。また、個人からも行き過ぎた競争を抑制する効果を期待する意見が述べられています。
     
    一方、Appleは「競争の抑制につながり、日本のお客様に対しさらに高い価格で今より少ない選択肢という状況をもたらす」と、以下の反対意見を表明しています。
     

    Appleは、世界で最も優れた製品を作り出し、自分たちが生まれてきた世界をさらに良いものとして次世代へ残すことに邁進しています。これは比類ない品質と業界をリードする機能を持ち、お客様の生活を豊かにしつつ、長く安心して使っていただける製品を設計し製造することを意味しています。お客様によってさまざまなご要望をお持ちかと思います。そのためにも私たちは多種多様な製品と価格帯をご用意しています。健全な競争がある市場では、さまざまな選択肢があることが重要です。残念なことに、この度の総務省令案のいくつかの条文は競争の抑制につながり、日本のお客様に対しさらに高い価格で今より少ない選択肢という状況をもたらすものであると考えています。

    旧モデルの値引き制限例外設定にAppleは強く反発

    省令案では、端末の割引額を2万円に制限する一方で、旧モデルの在庫処分を目的とした場合は端末価格割引の上限を50%まで拡大することを認めています。
     
    ただし、例外が適用されるのは「24カ月以上の在庫端末」や「製造中止端末で、入荷から12カ月以上経過した端末」などが対象です。
     
    総務省 モバイル市場の競争環境に関する研究会(第15回) 2019.6.18
     
    そのため、旧モデルでも価格を引き下げて製造・流通が継続されるiPhoneは事実上、対象となりません。例えば、iPhone7は2016年発表のモデルですが、現在も製造・流通が続いています。
     

    Appleは省令案に対し、「長く楽しんでいただける機能と価値を持った質の高い製品を創り出しているAppleのようなメーカーに対し、不当な扱いをするもの」と、資料の約2ページ分の長文で反対し、製品の「発表からの経過期間」に応じた割引提供を認めることを提案しています。
     
    iPhone7
     
    以下が、Appleによる反対意見です。

    Appleでは、日本のお客様がスマートフォンを購入する際に一連の選択肢を提供しています。アップルストアやオンライン・ストアを通じて直接Appleからご購入される場合も、量販店、通信会社各社、販売代理店といった提携先のネットワークを通じてご購入いただく場合も、日本のお客様にはさまざまな選択肢があります。iPhone XRやiPhone XSなどのAppleの最新モデルのiPhoneをご購入いただくこともできますし、iPhone8やiPhone7といった前の世代のモデルをお選びいただくこともできます。これら前の世代のiPhoneは、お客様がApple製品に期待する品質、安全、体験を、より低価格で提供しています。お客様からいただく高い評価、Appleがこだわる品質とデザイン、そして正しく管理された規模の経済によって、お客様は前の世代の製品であっても素晴らしい体験を提供してくれるものと信頼してくださっているのです。Appleでは前の世代の製品でさまざまな価格帯を設けることにより、お客様に最適なiPhoneを選べる自由を提供しているのです。
     
    このアプローチはAppleと他のスマートフォン・メーカーとを棲み分けています。一つの世代の製品群のなかに、さまざまな品質と多くのバリエーションを設けるメーカーもあります。一方、Appleは世代ごとにベストな製品のみをお届けしています。ほとんどの場合、私たちは他のメーカーに比べてより少ない種類のモデル(SKU)を提供しています。私たちは、通常1年に1度または2度、最新のiPhoneを発表しています。そして、高品質な前の世代の製品により様々な価格帯を提供しています。このアプローチはAppleの業績に寄与したばかりでなく、電気通信市場における消費者利益を保護し、競争を促進するという電気通信事業法の目的をより積極的に実現してきたのです。
     
    残念なことに、総務省令案はその逆のことをしています。同案では日本のお客様から選択肢が奪われ、より競争の少ないより高価格な市場が作り出されてしまいます。提案された内容のままでは、総務省令案はAppleとAppleのお客様、さらには私たちのサプライヤーやデベロッパーに対しても差別的な影響を与えかねません。
     
    この差別的な対応は、利益の提供に関連する例外に関する省令案第22条の2の16において、特に顕著です。例外の一つというのは在庫ルールに関するもので、最終調達日からの経過が長く、製造が中止された製品に対する割引きを許容するものです。特に、製品の最終調達日から24ヶ月が経過している場合は、電気通信事業者は半額に相当する額の割引きを行なうことができます。製品の製造が中止されており、最終調達日から24ヶ月が経過している場合には、8割に相当する額の割引きを行なうことができます。さらに製品の製造が中止されており、最終調達日から12ヶ月が経過している場合は、50%に相当する額の割引きが許容されています。これら割引きの制限に関する例外のルールは多くのモデルを発表しては製造を中止するを繰り返し、在庫を大量に抱えるメーカーには恩恵をもたらす一方で、高品質の製品のみを提供する企業には損害を与え、消費者をより低い性能の製品へと誘導しかねません。文面通りに受け取るのであれば、同例外のルールはメーカーに割引が可能なように意図的な製造と中止を行なうことを奨励しているように見えます。「最終調達から一定の時間が経過し製品の製造が中止された場合」のみ割引を認めるという総務省令では、品質の高い製品をより多くの方に手頃な価格で提供するという目標を達成できません。この度の総務省令は、長く楽しんでいただける機能と価値を持った質の高い製品を創り出しているAppleのようなメーカーに対し、不当な扱いをするものです。
     
    私たちは、「製品の発表からXX月を経過した」製品すべてにおいて割引の提供を許容することが、より公正かつ公平であると考えます。このアプローチによって、Appleの日本のお客様に不自然な形で不利益をもたらすことを避けられます。結果として健全なスマートフォン市場がもたらされ、さまざまなメーカーからのみならず、1つのメーカーの中でも多くの製品と価格から選べるようになるのです。お客様にとってより良い状況となり、日本のサプライヤー、iOSアプリ開発者、そしてコンテンツの製作者といった日本にいるパートナーにとっても利益をもたらします。

    5G普及への影響、「解除料1,000円」の妥当性への疑問も

    このほか、在日米国商工会議所は、端末販売価格の上昇が次世代モバイル通信規格5Gの普及を遅らせる可能性を指摘し、「日本政府が民間企業のビジネスモデルや条件に詳細に介入するアプローチには強く反対する」と、強い調子で反対意見を述べています。
     
    十分な検討のされないまま提案され、有識者会議メンバーからも疑問が飛び出した、端末割引額の上限は2万円とし、契約解除料の上限を1,000円とする案については「合理的な理由がない」「根拠が希薄」との批判的意見も目立ちます。
     
    これらの意見に対して総務省は「一定の妥当性があるものと考えます」としたうえで「毎年度評価・検証を行い、その結果を踏まえて本省令案などの見直しの必要性について検討する」と、今後の再検討の可能性があると回答しています。
     
     
    Source:総務省
    (hato)

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