インドのモディ政権と巨大財閥の闇、「ハッキング警告」送ったAppleに圧力
インドのモディ政権が野党政治家のiPhoneをハッキングした疑惑が報じられた後、政府関係者がAppleに警告文の内容を改めるよう、圧力をかけていたことが明らかとなりました。政財界の癒着も次第に明らかとなる中、Appleは政府との関係維持とプライバシー尊重の間で葛藤に直面しています。
■3行で分かる、この記事のポイント
1. 政府主導のハッキング疑惑が浮上した後も、政権がAppleに圧力をかけていたことが発覚。
2. 財閥に不都合な記事を掲載しようとした人物のiPhoneに、政府系スパイウェアが送り込まれていた。
3. 市場規模を考えると、Appleとしてはなかったことにしたいのが本音か。
モディ政権は「警告」に激怒
インドの野党政治家や運動家など、政権与党と敵対する人物たちのiPhoneに、同国政府がハッキング攻撃を仕掛けていた疑惑が報じられたのは2023年10月のことです。
Appleのハッキング検知システムが自動送信した警告画像は、攻撃を受けた政治家たちによって一斉にX(Twitter)上で公開されたため、モディ政権は国際的な批判に晒される結果となりました。
実際にハッキングが行われたかどうかについて、Appleは「(攻撃検知システムは)完全でも完璧でもない」として明言を避けましたが、モディ政権がこころよく思うはずがありません。
Washington Postの取材によって、政権関係者が現地のAppleに電話をかけ「政治的な影響を和らげるよう」警告の内容を見直すべきだと、圧力を掛けていたことが新たに分かりました。匿名を条件に語った人物によると、政権は「非常に怒っていた」そうです。
財閥に不都合な人間にスパイウェアを送り込む
Appleに圧力を掛けた背景を掘り下げていくと、モディ政権が財界と結託し、なりふり構わず権力を維持しようとする姿勢が浮かび上がってきます。
ハッキング被害の警告を受け取ったiPhoneユーザーたちには、モディ政権以外にも同氏と深い仲にある、インドのインフラを一手に担うAdani財閥に批判的だったという共通点がありました。
事実、組織犯罪や汚職の撲滅をプロジェクトに掲げる団体OCCRPが、証券取引法に違反しているとする記事を公開するとAdaniにメールで告知したところ、メール送信後から24時間以内に、イスラエルのスパイウェア企業NSO Groupの開発する「Pegasus」が仕込まれていたそうです。
このPegasusは政府機関にしか提供されていないため、Adaniとモディ政権に繋がりがあることを裏付ける証拠と考えることも不自然ではありません。
他にもWashington Postは、モディ政権の経済顧問を務める人物が、Appleと経済界の大物ジョージ・ソロス氏を結びつけるかのような陰謀論を展開し、火消しに躍起になっていることにも触れています。
悩ましいApple
ユーザープライバシーの尊重を声高に宣伝するAppleとしては、本来であれば、こうしたモディ政権の圧力は断固として跳ね除けたいに違いありません。米国では、FBIと真っ向から対立した過去もあります。
しかし世界最大級のスマートフォン市場であり、政府の支援を受けてiPhoneの量産拠点を拡大している現状を踏まえると、ここで政権と対立して締め出しを食らうのは何としてでも避けたいはずです。同じように中央集権が目立つ中国でも、Appleは粛々と政府当局の意向に従って、何度も物議を醸してきた過去があります。
残念ながらAppleとしては、今回の警告はただの“アクシデント”で済ませたいのが本音でしょう。
(kihachi)