【独自検証】Apple Watch Series 6の血中酸素測定は使えるのか?
Apple Watch Series 6の新機能の1つであるで血中酸素ウェルネスアプリを使用し、血中酸素濃度の測定値をパルスオキシメーターと比較してみました。測定値の差が大きく、医療用に使うのは困難ですが、フィットネス中、就寝中の血中酸素濃度の変動を確認するのに有用だと感じました。
▼血中酸素ウェルネスとは
└ パルスオキシメーターとの測定原理の違い
▼ログから確認した1週間の血中酸素濃度の変動
├ 短時間に連続測定して比較
├ 医療用診断機器ではないとの認識が必要
├ 手首で測定するスマートウォッチで正確な値を測るのは無理?
└ 誤差が大きい理由、ソフトウェア補正は困難
血中酸素ウェルネスとは
Apple Watch Series 6では、血液中に取り込まれた酸素のレベルを測定し、赤血球によって肺から全身に運ばれる酸素の割合を把握できる、血中酸素濃度測定機能「血中酸素ウェルネス」が利用できます。
血中酸素ウェルネスのログをヘルスケアアプリで確認、パルスオキシメーターと比較した誤差や、誤差が生じる原因となっているものを推察し、有益な活用方法を検討しました。
パルスオキシメーターとの測定原理の違い
パルスオキシメーターにおける血中酸素濃度(経皮的血中酸素飽和度:SpO2)の測定は、指先にセンサーを装着し、赤色光と赤外光を透過させて動脈血のヘモグロビンの吸光度を、透過した光の信号レベルと脈波から算出することで行っています。
Apple Watch Series 6には緑色と赤色のLEDが搭載され、手首の血管を照射してその反射光の量をフォトダイオードが読み取り、酸素レベルを算出します。
両製品では、下記のように測定原理が全く異なります。
製品 | Apple Watch Series 6 | パルスオキシメーター |
---|---|---|
センサー | 反射光 | 透過光 |
測定部位 | 手首 | 指先(耳たぶも可) |
ログから確認した1週間の血中酸素濃度の変動
血中酸素ウェルネスによる血中酸素濃度の測定結果を、ヘルスケア・アプリの「取り込まれた酸素のレベル」で確認してみました。筆者の測定結果は、「81%〜100%」でした。
一般財団法人 日本呼吸器学会は血中酸素飽和度に関し、「一般的に96%〜99%が標準時の値で、90%以下の場合は十分な酸素を全身の臓器に送れなくなった状態(呼吸不全)になっている可能性がある」と記しています。
血中酸素ウェルネスの測定結果から鑑みれば筆者は、「呼吸不全に陥っているケースがこの1週間で何度もあった」状態になっています。しかし、直近の健康診断でも異常は指摘されていません。
また、同じ期間で1日2回、パルスオキシメーターで血中酸素飽和度を測定しましたが、97%〜99%の結果が得られていましたのでやはり、健康上の問題はないと考えられました。
短時間に連続測定して比較
血中酸素ウェルネスと、パルスオキシメーターを使った血中酸素濃度の測定条件をなるべく揃えるため、2020年9月25日19時30分から短時間に連続して16回の測定を行いました。
ベルトの締め方が測定結果に影響を及ぼすことも予想されたため、「測定にエラーの出ない、いつもの締め方(ふつう)」「ゆるめの締め方(ゆるめ)」「キツめの締め方(キツめ)」を試しました。いずれも、血中酸素ウェルネスで測定エラーになるような締め方はしていません。
パルスオキシメーターと比較した結果を、下記グラフで示します(画像をタップすると大きな画像が表示されます)。
血中酸素ウェルネスとパルスオキシメーターの測定結果を比較した結果、わかったことは以下の通りです。
- パルスオキシメーターの測定結果は98%〜99%で安定していた
- 血中酸素ウェルネスの測定結果は1回を除き常に、パルスオキシメーターの測定結果より低かった
- 日本呼吸器学会が示している標準時の値、96%以下が、16回の測定中、9回記録された
- 日本呼吸器学会が、「呼吸不全になっている可能性がある」とする90%以下も1回記録された
- ベルトの締め方が測定結果に影響を与える可能性は低いと推察された
- 血中酸素ウェルネスの測定結果をもとに、呼吸器系疾患を抱えていると自己診断するのは危険である
今回の連続比較テストから、血中酸素ウェルネスはAppleの説明通り、「医療用ではなく、一般的なフィットネスとウェルネスの目的でのみ設計されている」として参考にすべきと考えられました。
医療用診断機器ではないとの認識が必要
The Washington Postは、「Apple Watch Series 6で血中酸素濃度を測定したら、100%と示された時もあれば、肺に病気を抱えた場合のようなとても低い測定結果が示された時もあった」と報告しています。
同メディアは、「Apple Watch Series 6とFitbitを使って血中酸素濃度測定を行ったが、両モデルで測定値が異なり、どちらも医療用としては用をなさない」ことも伝えています。
Appleは血中酸素ウェルネスの使用目的を、「医療用ではなく、一般的なフィットネスとウェルネスの目的でのみ設計されている」、Fitbitは、「病状の診断や治療を目的としたものではない」と説明しています。
両製品ともに医療用に設計されたものではないため、使用目的を正しく理解する必要があります。
手首で測定するスマートウォッチで正確な値を測るのは無理?
リーカーのマックス・ワインバック氏は、Galaxy Watch3を使用した血中酸素濃度(血中酸素飽和度)測定値は、パルスオキシメーターの測定値と15%の差があったと報告しています。
現在の血中酸素濃度測定方式では、Apple Watchに限らず、他のスマートウォッチでも大きな誤差が生じるようです。
誤差が大きい理由、ソフトウェア補正は困難
医療用血液検査装置などでは、設置型とポータブル型の間で測定方法が異なるため、双方の測定結果を参照し正しい値に補正する計算式が、測定精度に劣るポータブル型の内部プログラムに組み込まれています(多少乱暴な説明ですが、正しい値を示すと確認されている設置型の装置による測定値に、ポータブル型の測定値を合わせるように補正します)。
これらの補正、校正は同じ血液検体を用いて行われています。
Apple Watch Series 6で同じような補正を行うのは困難と予想されます。Apple Watch Series 6とパルスオキシメーターでは、血中酸素濃度を測定する方式、部位が異なります。手首は、医療診断レベルの血中酸素濃度の測定部位として適切な部位ではありません。
血中酸素ウェルネスによる血中酸素濃度測定が指先で行われたものなら、リファレンス用のパルスオキシメーターの数値と比較して補正することも可能かもしれませんが、測定部位も測定方法も異なることから、正しい値に補正することは出来ないと考えられます。
「Appleはパルスオキシメーターとの測定誤差を解消するために機械学習(ML)を活用し、改善することを検討している」と予想しているTwitterユーザーがいますが、測定部位、測定原理が異なるので補正で改善できる問題ではないこと、今回示したとおり、同じ条件で連続測定しても結果にかなりのばらつきがあることから、現在の搭載センサー類のままでは改善できない可能性が高そうです。
また、医療機器に該当する場合は「心電図アプリ」のように、医療機器としての認可を取得しなければりませんが、血中酸素ウェルネスは医療用に用いることを目的としていません。
血中酸素ウェルネスの有効活用
パルスオキシメーターとの比較では誤差が大きすぎると感じた血中酸素ウェルネスですが、運動や就寝時に、血中酸素濃度がどのように変動しているかを確認するのに役立ちそうです。
血中酸素飽和度(SpO2)の計測目的としては不完全ですが、運動中や就寝中に自身の血中酸素濃度がどのように変化しているかを確認する指標としては使えそうです。1時間のウォーキング中にどのように数値が変化するか確認しましたが、2%〜3%の範囲で一定の値を示しました(連続テストと比べて誤差が小さい理由は不明です)。
今後、ランニング、スイミング、サイクリングなど多くの環境で試し、血中酸素ウェルネスの数値変動を確認し、活用方法を模索したいと考えています。
血中酸素ウェルネスは、15秒という比較的短時間で測定結果が得られますので、フィットネス中のインターバルでの計測が楽しくなる新機能です。
本記事内の誤差発生原因の検討は、公開された医療機器情報、医学論文・資料をもとに独自に予想した内容であるため、実際の補正方式、補正係数とは異なる可能性があります。
Source:フクダコーリン, 日本光電, The Washington Post, Wccftech, 一般財団法人 日本呼吸器学会, コニカミノルタ, ResearchGate, Apple
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