【書評】Creative Selection Apple 創造を生む力

初代iPhoneのソフトウェアキーボードなどの開発に、必死で取り組んだAppleのソフトウェアエンジニアによる初代iPhone誕生秘話や、Apple流の仕事の進め方などが盛り込まれた書籍「Creative Selection Apple 創造を生む力」をご紹介します。
Appleの元エンジニアが現場を生々しく描いた一冊
「Creative Selection Apple 創造を生む力」の著者、ケン・コシエンダ氏は、2017年4月に退職するまで、Appleでソフトウェアエンジニアとして勤務し、特に初代iPhoneのソフトウェアキーボードの開発に大きく貢献した人物です。
Appleに関する本というと、天才的カリスマ経営者のスティーブ・ジョブズ氏や、製品のデザイン、企業経営戦略やブランドマネジメントなどについて書かれたものが多いですが、この本はAppleの開発現場にいた元エンジニアが、実際の開発の様子を生々しく描き出しているのが特徴です。
タイトルの「Creative Selection」は、iPhoneのようなクリエイティブな製品を生み出すプロセスとして、著者がAppleの開発現場で実践した、地道な「選択の繰り返し」を表しています。
Appleを辞めてGoogleへの転職も考えるほどの挫折も
日本で英語教師をしていた経験もあるコシエンダ氏は、名門イェール大学の卒業ですが、自身が「大学で数学の単位は1つも取っていない」「プログラマとしての教育は受けていない」と本書の中で明かすように、エリート開発者としてキャリアを重ねたわけでも、天才的な能力を持つ技術者だったわけでもありません。
むしろ、Internet Exploerより速く動作するブラウザ(Macの初代Safari)や、初代iPhoneの小さな画面で文字を入力するためソフトウェアキーボードを開発するために、膨大な作業を続け、試行錯誤を繰り返し、Appleを辞めてGoogleに転職することも真剣に検討するほど行き詰まりや挫折にもぶち当たった、普通の感覚を持つ人です。
しかし、そんなコシエンダ氏が困難を乗り越え、クリエイティブな製品を送り出すことができたのは、好奇心旺盛で気心の知れた同僚たちと協力しながら、「選択の繰り返し」を通じて学び、成長できたからと分かります。

本書を読めば、見慣れたiPhoneのキーボードを見る目も変わるはずです
スティーブ・ジョブズ氏やiPhoneの操作性への工夫も紹介
本書では、スティーブ・ジョブズ氏や、iPhoneを直感的に操作するために盛り込まれた工夫についても描かれています。
Appleの新製品開発プロセスにおいて繰り返されるデモンストレーションの場に立ったコシエンダ氏が、ジョブズ氏に見据えられ、質問された時の描写は、読者にも緊張感を与えます。
また、コシエンダ氏が説明しようとしたのとは別のアイデアを思いついたジョブズ氏が、説明を終えたコシエンダ氏の案を受け入れる様子からは、気性の激しい気分屋ながらも、純粋に最高の製品を追求していたジョブズ氏の姿勢を感じることができます。
iPhoneの直感的な操作性を実現するための様々な工夫も、コシエンダ氏の重ねた経験と合わせて読むと、実に興味深いものとなります。
著者の学びと成長を追体験できる、働く人を勇気づける一冊
本書には、コシエンダ氏が開発の現場で困難に直面して苦しみ、同僚たちに助けを求め、様々な経験を通じて学び、成長する姿が描かれています。読者は、コシエンダ氏に自分を重ね合わせながら一緒に学び、成長する追体験ができます。
著者はソフトウェアエンジニアですが、技術的な専門知識がない方でも理解しやすいよう、スポーツや料理、映画制作などの例え話が効果的に使われています。もちろん、技術的に詳しい方ならコシエンダ氏の視点に共感する点も多いでしょう。
最後には、コシエンダ氏がこれから仕事を始める人たちに向けた、応援のメッセージも含まれています。
iPhoneの開発秘話を知りたい方はもちろん、働く方々を勇気づける一冊としても、お勧めしたいと思います。
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【書籍情報】
「Creative Selection Apple 創造を生む力」ケン・コシエンダ (著), 二木夢子 (翻訳), サンマーク出版, 2019年3月
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(hato)