ARは50年前に発明された?歴史をたどると見えてくるAppleの現在の立ち位置

iPhone XのTrueDepthカメラは、一般に普及した最初の本格AR技術だといわれています。拡張現実(AR)は、Google Glassの失敗から始まり、Pokémon GOで初めてメインストリームの仲間入りを果たした比較的新しい技術だと思われがちですが、歴史をたどるとアメリカ人計算機科学者のアイバン・サザランド氏により1968年に開発されたヘッドマウントディスプレイシステムまでさかのぼることができるといいます。
50年前のヘッドマウントディスプレイ
Google Glassの大失敗からPokémon GOの大流行まで、比較的浅いと思われがちなARの歴史をたどると1968年に開発されたヘッドマウントディスプレイまでさかるのぼることができるといいます。
今から49年前にアメリカ人計算機科学者のアイバン・サザランド氏は、当時の教え子であるボブ・スプロール氏とともに、「The Sword of Damocles(ダモクレスの剣)」と呼ばれる装置を開発しました。
天井から垂れ下がるトラッキング機器が、頭にささった剣のように見えたことからそのように名付けられたこの装置ですが、2つのCRT(ブラウン管)の3D映像がハーフミラーを介して現実世界に重ね合わされるという、まさしく拡張現実そのものだったのです。
軍事目的で開発が進められたAR
ARは実用的であることから、インターネットやGPSの技術を開発したことで知られるアメリカ国防高等研究計画局(DARPA)により、航空パイロットのための情報処理装置として注目されます。
戦闘機で照準を合わせるのに使用されるヘッドアップディスプレイは、今ではパイロットにとって欠かせないものとなりました。
しかしながら軍事目的以外では、ARの開発は思うように進みませんでした。VRと異なり、現実世界に対して3D映像を重ね合わせるARは、リアルタイムで現実世界をモデル化する高度な計算処理技術が必要だったからです。
20年後、航空機製造で知られるBoeing社がARの民間利用目的での開発の指揮を執ります。10,000ページ以上のマニュアルで構成される航空機の組み立てプロセスをヘッドセットの画面に映し出すことで、作業が妨げられることなく必要な技術情報を閲覧することができるようになりました。
Google Glassの失敗とPokémon GOの流行
基本的にはBoeing社が開発した技術そのままだといわれるARヘッドセットのGoogle Glassは、2013年に一般向けに発売されたものの、デバイス外側に取り付けられたカメラがあまりにも目立ちすぎたことから、監視の恐怖を人々の心に植え付けてしまい失敗に終わります。
デバイス自体が役に立たなかったわけではなく、通称セグウェイ効果と呼ばれる、誰も近くに寄りたがらないことが一番の問題でした。
その後満を持して2015年に登場したのが、Depthカメラが内蔵されたMicrosoftのHololensです。コンピュータビジョンアルゴリズムと加速度計やジャイロを組み合わせ、自己位置推定と環境地図作成を同時に行なう、通称SLAM(スラム)で、3Dホログラム映像を現実空間にかなりの精度で配置することが可能になりました。
開発者には重宝されるHololensですが、商業的には成功したとは言いがたく、ARのエコシステムを生み出すほどの販売台数には至っていません。
そして2016年、NianticによるPokémon GOが異例のヒットを記録し、リリースから最初の1ヶ月で2億ドル(約224億円)の売上額を達成します。Pokémon GOは、AR技術としては比較的単純ながらも、ARをメインストリームにまで押し上げたことで非常に評価されました。
AppleのiPhone X発表へ
2017年9月、Appleの新社屋Apple ParkにてiPhone Xが華々しくデビューしました。10月末の予約開始とほぼ同時に売り切れたiPhone Xは、11月上旬時点ですでにiPhone全体のうち0.93%のシェアを占めるに至っています。
iPhone Xは一般に普及した初の本格AR技術搭載デバイスだといわれており、iOS11で利用可能となった開発者のためのARアプリ開発環境ARKitと相まって、ARのエコシステムを形成しつつあります。
現在のところデバイス内側に向けられたiPhone XのTrueDepthカメラですが、2019年にはリア側にDepthカメラ機能を搭載したiPhoneが発表されるとの推測もあり、今後のARの発展から目が離せません。
Source:The Register
Photo:Computer History Museum
(lexi)