Apple、児童ポルノ検出のためメッセージのスキャンを義務付ける英法案に反対を表明

Apple プライバシー

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児童への性的虐待の可能性のある画像を検出するため、メッセージのスキャンをメッセージサービスの提供事業者に義務付ける、イギリス議会で審議中の法案に、プライバシーの侵害とセキュリティ上の懸念があるとしてAppleが反対を表明しています。Appleは、2021年にデバイス上でのスキャン機能を発表していますが、翌年に導入を断念しています。

 

■3行で分かる、この記事のポイント
1. Appleが、メッセージのスキャンを義務付ける法案への反対を表明している。
2. 暗号化によるセキュリティとプライバシーが弱体化するとの懸念がある。
3. Appleは2021年にデバイス上でのスキャン機能を発表したが導入を断念。

メッセージのスキャンを義務付ける法案

イギリス議会で審議されている「オンライン安全法案(Online Safety Bill)」は、iPhoneのiMessageのような、エンド・トゥ・エンドの暗号化を採用するメッセージプラットフォーム上でやり取りされる画像をスキャンし、児童への性的虐待の可能性のある画像(CSAM:Child Sexual Abuse Material)を検出することの義務付けを含みます。
 
もし同法が成立すると、通信分野の監督省庁であるOFCOMが、メッセージ内容のスキャンをAppleなど各プラットフォーム事業者に義務付けることが可能となります。

Apple、イギリス政府に法案の修正を求める

iPhoneなどで使用されているiMessageは、エンド・トゥ・エンドの暗号化が施されており、送信者と受信者以外、Appleでもメッセージの内容を見ることはできません。
 
しかし、メッセージのスキャンが義務付けられた場合、セキュリティが低下し、ユーザーのプライバシーが守られなくなる懸念があります。
 
Appleは、「エンド・トゥ・エンドの暗号化は、ジャーナリスト、人権活動家、外交官のプライバシーを保護するうえで重要な機能です」「エンド・トゥ・エンドの暗号化は、一般市民が監視、個人情報の盗難、詐欺、データ侵害から身を守るのにも有益です」「オンライン安全法案は、一般市民を守るうえでの深刻な脅威となり、イギリス国民を甚大なリスクにさらす危険性があります。Appleは、エンド・トゥ・エンドの暗号化がもたらす全ての人々の利益のために、イギリス政府に法案の修正を求めます」との声明を発表しています。

市民団体や科学者ら「世界中の人々に影響」

80以上の市民団体、科学者で組織されたOpen Rights Groupは、イギリスの科学イノベーション技術担当大臣にあてた、オンライン安全法案に反対する公開書簡を発表しています。
 
同団体は「イギリスは、人々のプライベートなメッセージを日常的にスキャンする最初の自由民主主義国家になる可能性がある」「この法案はデジタルコミュニケーションのセキュリティに深刻な危機をもたらす。その影響は4,000万人以上のイギリス国民だけでなく、世界中の20億人以上の人々に及ぶ」と警鐘を鳴らしています。
 
このほか、WhatsAppは暗号化の効果を弱める同法案への反対を表明しているほか、Signalはスキャンが義務化された場合はイギリスから撤退すると述べています。
 
BBCは、イギリス政府は法案の内容を修正せざるを得ないだろう、とコメントしています。

AppleはCSAMスキャン機能を発表も導入を断念(英政府は賞賛)

Appleは2021年8月に、児童への性的虐待画像をiPhoneなどのデバイス上でスキャンし、全米行方不明・被搾取児童センター(NCMEC)のデータベースに一致した場合、NCMECに報告する機能の導入を発表しました
 
Appleによる発表直後から、政府による検閲に転用される危険性や、プライバシー侵害への懸念への指摘が相次ぎ、Apple内部からも疑問の声が上がっていました。
 
この機能に対して、イギリス政府は児童の保護に有益だと賞賛していましたが、Appleは2022年12月、同機能の導入を完全に断念したことを明らかにしています。
 
なお、Appleが2023年秋に公開予定のiOS17では、性的な画像や動画がAirDropやiMessageや他社製アプリで届いた場合に自動でぼかしが入り、センシティブな画像の可能性がある、と警告を表示する機能が導入されます。
 
Apple iOS17 プレビュー センシティブな画像
 

もしも日本で同様の法律が施行されたら?

児童への性的虐待のためとはいえ、メッセージ内容がスキャンされるという法律が日本で導入されるとどうなるのか、色々と不安になります。
 
メッセージをスキャンする精度を各プラットフォーム事業者で統一できるのか、完全には排除できないであろう画像の誤認識による冤罪を防ぐ方策などがどのように扱われるのか、気になるところです。
 
 
Source:BBC via AppleInsider
Photo:Apple, Apple/YouTube
(hato)

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この記事を書いた人

2013年からライター&編集担当として活動。2007年、駐在中のシリコンバレーで発売直後の初代iPhoneに触れて惚れ込む。iPhone歴は3GS→5s→6 Plus→7 Plus→XS Max→12 Pro Max→14 Pro。

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