Appleは先日、「Our Commitment to Human Rights(人権への私たちの取り組み)」と題したレポートを公開し、ユーザープライバシーの尊重やサプライヤーの労働環境改善に取り組んでいることを改めて強調しました。しかし、中国について言及がないことから疑問を呈する声も上がっています。
人権の尊重方針を改めてアピール
Appleのポリシーが表明されたレポートでは、ティム・クック最高経営責任者(CEO)がデバイスと人間性について語るとともに、「私たちに関わる全ての人たち――従業員、サプライヤー、契約相手、消費者――の人権を尊重します」といった方針が掲げられました。Appleは定期的にこうしたレポートを公開しており、人道性をアピールすることも珍しくありません。
「日々私たちは高品質の製品を作るために努力しています。この中にはコンテンツやサービスも含まれており、人権を尊重してユーザーにお届けしています」。ただしレポートには、あくまでも現地の法律を尊重する旨も改めて明記されています。「現地の法律に従うことを要請されており、ときには正しい道を進むため、政府や他の関係者と反目するような複雑な問題もあります」
中国の名前は見当たらず
複雑な問題(complex issue)とは何か――Appleは明示していませんが、中国を念頭に置いた言及であることは論を俟たないでしょう。
かねてよりAppleは中国政府当局の意向を汲んで、App Storeから問題となるアプリの公開を何度も取り下げてきました。2017年には
674個ものVPNアプリを一斉削除したほか、2019年には香港民主化デモのアプリの公開を一方的に停止し、
ティム・クックCEOが釈明する事態にまで発展しています。また、最近では8月に
2,500個のゲームをストアから削除しています(ただし、自主検閲ではなくライセンス不足が理由)。
このレポートが公開されたのは、来年の株主総会に向けた提案提出期限の前日であったため、株主への配慮だと考えられています。事実、2月には
「Appleが表現の自由を人権として公的に尊重しているかを報告すべき」といった提案が株主から出され、最終的に否決されたものの、40.6%の賛成票を得ました。さらにウイグル自治区の収容所問題を始めとして、中国への風当たりは昨年よりも強まっており、Appleとしても沈黙を続けるわけにはいかなかったのでしょう。
とはいえ、ニュースサイトThe Vergeが指摘するように、レポートに“中国”の名前はどこにも見当たりません。中国市場に背を向けるか、それとも中国政府の意向に従い続けるのか――Appleの置かれた状況の難しさが、このレポートから伝わってきます。
Source:
Financial Times via
The Verge,
Apple(PDF)
(kihachi)