AirPodsで脳波を測る〜Appleが出願した特許の中身

Appleが耳に着けたAirPodsで、脳波まで測るという特許を出願しました。睡眠や集中の状態を数値でつかむ構想ですが、いまのところ特許どまりで、製品化が決まったわけではありません。何がどこまでできそうなのか、日本のユーザーにとっての意味も含めて、特許の中身を読み解きます。
耳から脳波を測るという発想
Appleが出願したのは、イヤホン型の機器で体の電気信号を測る技術に関する特許です。出願は2023年で、海外では登録済みとも報じられています。測れる対象は脳波(EEG)だけではありません。筋肉や目の動き、心臓の働き、皮膚の電気的な反応まで含まれます。電極は、測定用を交換式のイヤーチップに、基準用をステムや本体に置く設計です。
脳波は頭皮に電極を貼って測るのが一般的ですが、この特許は耳の内側や周りに電極を置きます。耳なら電極が目立たず、着けていても動きにくいためです。とはいえ、耳の形は人それぞれで、同じ人でも時間とともに変わります。電極の位置を決め打ちにすると、精度を保ちにくくなります。特許自体、その難しさに触れています。
カギは「動的な電極選択」
その解決策が、特許の核にある「動的な電極選択」です。電極をあえて多めにイヤーチップやステムへ配置し、AIがインピーダンス(電気の流れにくさ)やノイズ、肌との接触具合、電極どうしの距離を見ながら、いちばんきれいに拾える組み合わせを選びます。
選んだ信号は重みづけして、1つの波形にまとめます。測定のオンオフは、AirPodsを軽くタップしたり、つまんだりして行う想定です。見逃せないのは、AirPods Pro 3がすでに心拍計測用の光学式センサーを搭載していることです。心拍の次は脳波、という順番を思えば、Appleが耳もとで健康を測る方向に着実に動いているのがわかります。
脳波でわかること〜睡眠と集中
脳波が測れると、その日の調子を「体」だけでなく「頭」からもつかめます。特許のいちばん面白い部分です。
夜は睡眠段階の把握
脳波を解析すれば、眠りがいまどの段階にあるかを読み取れると報じられています。Apple自身の研究者も、脳波をAIで解析する新しい手法を発表しました。検証には、耳から測る脳波(イヤーEEG)の睡眠記録も使っています。うまくいけば、夜の睡眠段階を、これまでより細かく掴めるかもしれません。ただし、この手法はAirPodsや今回の特許と直接つながっているわけではなく、あくまで土台になる研究の一つです。
日中は集中と負荷の可視化
日中は、集中や眠気、頭の疲れ具合を数値にする使い方が見込めます。Apple Watchをはじめとするウェアラブルは、心拍や心拍変動、睡眠、活動量といった「体の状態」を測ってきました。ただ、集中や思考の負荷そのものを脳の信号から直接測ることは、まだできていません。耳で脳波を拾えれば、今まで不可能だった上記のことを実現できる可能性があります。
そして、こうした機器はすでに世に出ています。Neurableは複数の乾式脳波センサーを備えたヘッドホンで集中の度合いを可視化し、スイスのIDUNも耳装着型の脳波デバイスを手がけて、新型の開発を進めています。耳や頭から脳波を測ること自体は、2026年のいま、珍しくなくなってきました。
日本のiPhoneユーザーにとっての意味
日本のユーザーにとっても、絵空事ではありません。通勤電車やオフィスでイヤホンを付けている時間は長く、日中は集中のデータ、夜は睡眠のデータが取れるなら、生活に自然と溶け込む健康機能になりそうです。
眠りの浅さや、日中に集中が続かない悩みは、身に覚えのある人も多いでしょう。Apple Watchで心拍や睡眠の記録がすっかり当たり前になったように、AirPodsが「頭の状態」まで測れるようになれば、体調管理の入り口はぐっと広がります。腕時計は着けなくても、イヤホンは毎日使うという人にとっては、なおさら手に取りやすいと思います。
もっとも、脳波のようなデリケートなデータだけに、見せ方には気を配ってほしいところです。スコアに一喜一憂するためではなく、生活を整える手がかりとして使えるかどうか。そこが、実際の使い勝手を左右します。
製品化への距離
ただ、特許があるからといって、そのまま製品になるとは限りません。同じ人でも耳の状態は変わるため、電極を賢く選ぶ仕組みがあっても、安定した計測を続けるのは骨が折れます。特許自体、その難しさや、一人ひとりの耳に合わせるとコストがかさむ点に触れています。
集中のような状態は、睡眠ほど測り方の基準が固まっておらず、数値にしづらい面もあります。だとすれば、脳波を使う機能が載るとしても、最初から万能の指標が出てくるとは考えにくいはずです。睡眠の計測や、短い集中セッションの記録あたりから、少しずつ広がっていくのではないでしょうか。
脳波を測るAirPodsは実現するか
今回の特許は、AirPodsを「音を聴く道具」から「体や脳の状態を読み取る道具」へと押し広げる構想です。睡眠段階の把握や、集中と疲れの可視化まで実現すれば、毎日の体調管理はもう一歩踏み込んだものになります。
ただ、Appleの研究はAirPodsと直接つながっているわけではなく、実際に製品や機能まで届くかどうかは、まだ何とも言えません。今の時点では、あくまで特許という設計図の段階です。答え合わせは、これからのAirPodsやiOSの健康まわりのアップデートを待つことになります。
Photo:9to5Mac
