Appleが開発を進めるスマートグラスを、健康とフィットネスの新しい受け皿にしようとしているという内容の報道が海外から届きました。ただし、健康関連の機能が最初のモデルに載る見込みは薄く、実際に使えるようになるのは2年ほど先とみられます。Vision Proで一度は断念した計画がなぜ形を変えて戻ってきたのか、画面のないスマートグラスで運動をどう支えるのか、日本での普及条件まで含めて整理します。
Appleスマートグラスの健康機能はいつ使えるのか
見えている時間軸を先に押さえておくと、初代モデルの登場が1年以内、健康・フィットネス機能はそれ以降という順序です。海外メディアの報道でも、Appleが初代モデルでこの分野に踏み込む可能性は低いという見立てです。
逆算すると、ランニングやトレーニングで実用になる形が整うのは早くても2年ほど先という計算になります。価格や対応国はまだ何も明らかになっておらず、日本での発売時期を占う材料も揃っていません。買い替えの判断材料としては、まだ距離のある段階と捉えておくのが無難でしょう。
Vision Proで消えたフィットネス構想がスマートグラスへ
海外メディアの報道によると、Appleはかつて、Vision Proを健康の土台にする計画を進めていました。ヘッドセットの中でApple Fitness+のクラスを再生し、本体の身体トラッキング(装着者の動きをセンサーで追う技術)で解析するという構想です。この計画は技術的な壁と本体が重すぎたことを理由に、製品化に至らなかったと伝えられています。
Appleは同じ狙いを、今度はスマートグラスで追い直しているといいます。グラスと将来のヘッドセットを開発するVision Products Groupは、視覚系製品全体における健康・ウェルビーイング・フィットネス体験の方向性を定める人材の採用に動いているとのことです。
2つの製品が置かれた条件を並べると、方針転換の理由が浮かび上がります。
| 比較軸 | Vision Pro | 開発中のスマートグラス |
|---|---|---|
| 重さ | 重量が壁となり計画を断念 | 重量は明らかになっていない |
| ディスプレイ | 搭載 | 非搭載 |
| 動きの解析 | 身体トラッキングで実現する計画 | 手段は明らかになっていない |
| 健康機能 | 未発売のまま計画を断念 | 初代では見送りの見通し |
運動中に身につける機器には、静止して使う機器とは比べものにならない重量の制約が付き纏います。Apple WatchもAirPodsも、装着感を損なわない軽さを優先してきた製品でした。その基準に空間コンピュータ(現実の空間に情報を重ねて操作する端末)が届かなかった構図が、今回の話からは透けて見えます。
画面のないスマートグラスで運動をどう支えるのか
難しいのは、ディスプレイを外した代償として、心拍やペースを目で確かめる手段が失われる点です。解決の方向はおそらく音声にあります。
走行中のペース配分や息の乱れを耳元で伝える設計なら、画面を見るために足を止めずに済み、ランナーにとってはかえって自然な体験に近づくでしょう。Apple WatchやAirPodsで音声フィードバックの下地を積み上げてきたAppleにとって、無理のない延長線上といえます。
カメラを備えるなら、フォームの崩れを外側から捉える役割も担えそうです。手首のセンサーは腕の動きから全身の状態を推定する仕組みですが、顔の高さにあるカメラなら、進行方向の景色と身体の揺れを直接捉えられるはずです。スクワットの深さや着地の位置など、ウェアラブルが不得手だった領域にも手が届く可能性が出てきます。
初代で健康機能が見送られる3つの理由
搭載が先送りされる背景には、性能・精度・制度という層の異なる事情が絡んでいます。
- 電池と重さの綱引き:センサーを増やせば駆動時間が縮み、電池を足せば重さが戻る
- 計測精度の壁:走行中にずれやすいメガネで、肌への密着をどう保つか
- 各国の承認手続き:医療機器に該当する機能は国ごとに規制の枠組みが異なる
電池と重さの綱引き
メガネのフレームという細長い空間では、消費電力と重量のせめぎ合いがApple Watchと同様に、あるいはそれ以上に厳しく効いてくるはずです。センサーを1つ足すたびに、Appleは駆動時間か装着感のどちらかを削る判断を求められやすくなります。
計測精度の壁
手首や耳は機器が肌に密着した状態を保ちやすく、心拍の値も安定します。ところがメガネは走行中にずれやすく、同じ密着度を保てるかは未知数です。健康を名乗る以上、Appleが中途半端な精度のまま製品化に踏み切るとは考えにくいところがあります。
各国の承認手続き
医療機器に該当する機能は国ごとに承認の手続きが異なり、Apple Watchの心電図機能も日本で使えるようになるまでに時間を要しました。初代で健康機能を伏せておく判断は、発売地域を広げやすくするうえでも合理的です。
Appleスマートグラスが日本で普及する条件
日本での普及を考えるとき、屋外でカメラ付きのメガネをかけることへの心理的な抵抗は避けて通れません。もっとも、日本には追い風になりそうな条件も揃います。メガネを日常的に使っている人にとって、顔に何かを載せること自体は目新しい体験ではないからです。
レンズが賢くなるという変化は、まったく新しい機器を身につけ始めるより心理的な段差を小さくします。すでに毎朝かけているものが少し便利になる、という受け止め方ができるなら、導入への抵抗はかなり薄まります。
移動中の使い勝手も気になるところです。ただし自転車の走行中は、周囲の音が聞こえない状態での機器の使用を規則が制限している点に注意が必要です。
現実的な出番は、駅までの徒歩やランニングの場面になりそうです。手首に視線を落とさずに情報を受け取れる利点は、片手がふさがっている移動中ほど効いてきます。
買い替え計画をどう組み立てるか
Apple Watchの購入を迷っている人が、スマートグラスを理由に見送る必要はないでしょう。健康機能の実用化が2年ほど先である以上、今ある選択肢を我慢する理由は見当たりません。
長い目で見て注目したいのは、健康の計測点を手首から耳、そして顔へと広げようとしている流れそのものです。1台で完結させるのではなく、複数の機器から集めた情報をヘルスケアアプリに束ねる方向へ動いているように映ります。その全体像が固まったとき、今回の報道は最初の一手として振り返られるのかもしれません。
Photo:9to5Mac
