ベイマックスもびっくり?医療スマホが凄すぎる進化を遂げていた
この数年、銀行決済から買い物、エンターテイメントに至るまで、スマートフォンは人々の生活を大きく変えてきました。そして、次のターゲットとなるのが医療分野です。デジタル処理能力やクラウド技術の大幅な躍進、コンピュータの学習能力の向上によって、膨大な患者の情報を処理することが可能になりました。こうして生まれたのが、医療に特化したスマートフォンです。
スマートフォンが世界を何もかも変えてしまった
スマートフォン革命にともなって、病気を抱えた人々が病院に通う頻度は明らかに少なくなりました。アプリストアをみても、心拍数を測定してくれたり、中耳炎を診断してくれたりするアプリがそこら中に展開されています。もちろん、医師にスマートフォンが取って代わったわけではありませんが、患者側が様々な情報を、スマートフォンを通して得ることによって、医師と患者との関係の在り方が変わったのも確かです。
患者のプライバシーがハッキングされる可能性や、精度の問題など様々な課題がスマートフォンには残りますし、これまでのような医師との関係が損なわれ、人間的な要素が薬の処方から消えていくことへの不安も正しいです。しかし、すでに移行は着実に始まっているのです。
例えば、あなたが何か発疹を肌に起こしたとしましょう。あなたは、アプリをダウンロードし、患部の写真を撮り、アップロードします。すると数分以内に、専用のコンピュータがアルゴリズムを用いて分析し、あなたの症例をアプリ内で教えてくれます。それだけでなく、患部に軟膏クリームを塗れだとか、皮膚科の専門医に診断してもらった方がいい、といったような、次にどうすれば良いかといったことまでも示してくれるのです。今日では既にこのようなことが既に可能となっているのです。
最新の医療用スマートフォンは、血圧も読み取ることが可能ですし、心電図さえも描くことが出来ます。アメリカ食品医薬品局に承認され、様々な学術研究によっても有効と認められた「ECG」というアプリでは、患者の循環器系データをリアルタイムで分析、グラフ化し、スマートフォンのディスプレイに示してくれると共に、データを情報ネットワークに蓄積し、シェアします。例えば心房細動を患者が起こした場合、ECGを通して、「私は今心房細動を起こしています。今何をすべきでしょうか?」といったようなメールが医師に向けて送られます。スマートフォンは患者の病状を「記録」するだけでなく、「解釈」する段階に来ているのです。
自撮りはすでにブームだが、自己治療分析はまだ始まったばかり
次の十年で、我々を取り巻く環境は大きく変化します。身体にかかわるリスクや医療的に知っておくべきことは完全にモニタリング出来るようになるでしょう。どんなにアクセスが困難な場所だろうと、ナノセンサーを血流に乗せて体中をチェックすることが出来ますし、いざというときは血管拡張にも役立ってくれるでしょう。常時血液を検査することでガンの予兆もすぐに分かりますし、心臓麻痺や心房細動の原因と成る動脈硬化や動脈破裂が起こらないよう修復することも可能になります。
さらに、医療用ウェアラブルデバイスを使えば、スマートフォンと組み合わせて、自身で血中酸素濃度や血糖値、血圧、心拍数などのデータを蓄積し、診断を下すことも可能です。たとえば子供が中耳炎に罹ったかどうかも、スマートフォンに簡単な装置を取り付けるだけで、小児科に通うまでもなく、あっという間に診断することが可能です。中耳炎の自己診断はまだ最初の一歩に過ぎません。目、喉、虫歯、肺、心臓、あらゆる部位が今後は対象となっていきます。
今後1,2年でスマートウォッチが行き渡るに連れて、かなりの数の人間の血圧や心拍数のデータが測定されることになりますし、スマートウォッチで体調が日々分析され、ウェアラブルデバイスで治療が行われるようになれば、1日に数万円かかるような入院も避けることが出来ます。緊急オペレーションのためのICUを除けば、病院の部屋もこれまでのようには必要なくなるでしょう。ベッドの遠隔モニタリングが出来るコントロールセンターさえあれば、患者の病状をいつでも把握出来るからです。
他に面白そうなウェアラブルデバイスとして、心臓の機能や肺の通気量を測定してくれるネックレスや、血糖値や眼圧(緑内障治療に役立つ)を測定してくれるコンタクト、脳波を測定してくれるヘッドバンドなどが開発途中です。将来的には、パーキンソン病患者の歩行から分析し治療がうまくいっているかどうかを教えてくれたり、歩行に不安のある家族の誰かが落下するようなリスクを先立って教えてくれたりする靴下や靴が登場するかも知れません。
その一方で大型診断機械も小型化が推し進められています。手に収まるサイズの超音波デバイスは既に購入可能ですし、ハンディサイズのMRIですら、UCLAがスマートフォンサイズのデバイスでX線写真を撮ることに成功しました。骨をボロボロにする心配をしなくていいなら、スマートフォンでがんがんX線自撮り出来る日もそう遠くなさそうです。
医療情報のクラウド化
溢れかえるデータが統合され、分析されることで、個人のデータと全体のデータという、二つの異なるレベルからのアプローチが可能になります。関連するデータが追跡されマシーンのふるいにかけられることによって、個別では決して特定できないような複雑なトレンドや相互連関に注目することが出来ます。
スマートフォンは病院となるだけでなく、研究所のような役割を果たしてくれます。スマートフォンに取り付ける装置がラボでやるようなテストと同じ効果を発揮してくれるでしょう。血液中の電解質、肝臓や腎臓、甲状腺の機能チェック、呼吸が正常かどうか、尿に含まれる血糖値などは、少量のサンプルさえあれば手軽に分析できるものです。わざわざ病院に通うコストは大幅に減少するでしょう。
また我々の健康は、周囲の環境に大きく影響を受けていますが、その環境を定量分析しリスクを予め抑えこむことは、とても難しいものでした。しかし、現在開発されている技術を使えば、放射能、空気汚染、食品の農薬含有量をスマートフォンで測定することも可能ですし、薬物の処方も通知がデジタル化されます。
たとえば喘息を考えてみましょう。体育の授業でゼーゼーと息を吐いてばかりの少年は、血中酸素濃度、身体に起こるサイン、肩の動きなどを運動の過程で知りつつ、空気の質や花粉の濃度といった自身が晒されている環境に対し包括的なデータを得ることが出来ます。肺の機能もスマートフォンやマイクロフォンで測定し、一酸化窒素のレベルを呼吸のサンプルから取得します。これらの情報はすべての喘息患者から上がってくる情報と繋げられ、何か危険が近づいていれば、そろそろ吸入器を使ったほうがいいといったようなことを、テキストや音声メッセージで教えてくれるでしょう。
同じことが心臓疾患、深刻な落ち込み、自己免疫疾患といったようなことにも言えます。病気を先取りしてしまうことが数えきれないほどの命を救うことになるのです。
本当の革命は、自身の安全を確保することや、メディカルデータをスマートフォンで分析することからではなく、このような個人のデータを結合したクラウドからこそ来るのです。
医師不要の時代へ
これら最新のツールから、もはや医師不要の時代に突入しかけていることは明らかです。今はまだ医師の診断を受ける必要がありますが、今後はほぼ全てを自分のコントロール下に収めることができるようになるでしょう。
このような変化は遅すぎたと言ってもいいくらいです。4,600年前のエジプト、最初の内科医とされるイムホテップの時代から、医療の扱いは一部の司祭階級のみにだけ明かされる秘術とされてきました。2,000年を経て、薬の父とされるヒポクラテスの時代になってもまだ、「医療情報は患者に明かされるべきでない」とのテーゼが変わることはありませんでした。
ヒポクラテスの特権主義的な考えは、今日になってもいまだ我々の文化の中に「医者は全てを知っている」といった受動的な考えとして根付いています。内科医達がそう考えがちなのは無理もありませんが、このような考えは医療情報の伝達に対するトップダウン方式を強化してきました。事実、大半の医者が患者にカルテをEメールで公開することに対して否定的です。研究所で行ったテストやスキャンの結果のコピーですら、手に入れることなど最早不可能に等しい有り様です。こういった状況は今後大幅に変わっていくでしょう。
人よりコンピュータの方が話しやすい?

映画「Her/世界でひとつの彼女」では、OSと心を通わせていく孤独な男性が描かれました。
我々はしばしば医師不足に直面しかかっていると言われてきましたが、今後はそのような心配をする必要もなくなるに違いありません。
医師が明確とも言えるほどに欠乏しているメンタルヘルスですら、スマートフォンが今後は介助となっていくでしょう。声のトーンや大きさ、顔の表情、呼吸パターン、心拍数、電気信号に対する肌の反応、血圧といったものから、メールに対する満足度や気にかける頻度まで、あらゆるものをリアルタイムに分析し、定量データとして示すことの出来る新たなアプリが既に開発途中です。
最近発表された人間の行動をコンピュータで捉える研究によれば、我々は、実際の人間よりもコンピュータ上のアバターやバーチャルな人物に対して心の内を明かすことを好む傾向にあるそうです。映画「her/世界でひとつの彼女」のように、機械がムードを和ませたり、カウンセリングをしたりすることが可能になれば、メンタルヘルスの分野でも大きな変化が見られるかも知れません。
代替不能なこともある
散々ここまで華やかしい未来を語ってきましたが、その一方で大きな懸念を呼び起こすことも事実です。これらの技術が一般に向けて広まる前に、臨床実験を通して認可される必要があるだけでなく、本当に効果があるのか、コストを抑えることが出来るのかといったことも必ず測られなければなりません。認可がされなければ、これらの技術は夢物語に終わってしまうでしょう。
情報の氾濫をうまく我々が捌けるのかという問題もあります。個人的な健康のプライバシーを第三者に売り渡されたり、ハッキングされたりするとして、何かなす術はあるのでしょうか。データ分析に対しても悲観的になったほうが良いかも知れません。ビッグデータを貯めがちですが、そこから得られる情報は極わずかです。DNAの配列を知ったところで大抵は複雑に入り組んでおり、とても我々が手に負える代物ではない可能性もあります。
また、アバターに心の中を明かしやすいからといって、アバターをドクターとして頼ることは出来ませんし、スマートフォンで自己診断ができるからといって、治療までも行ってくれるわけではありません。確かにこれらのハイテクノロジー技術は、医療情報を直接、素早く、そして安価に我々へともたらしてくれます。しかし、キーボードではなく医師と向き合って問題を解決することの価値が決して失われたわけではありません。
そして医療2.0へ
もちろんこれらの問題は過度的なもので、最終的には解決されるでしょう。何より、このような困難があるからといって、我々が情報を手に入れることを思いとどまらせる理由は何もありません。
私達は医療情報のクラウド化という新時代によって未曾有の事態に直面しています。何百万、何十億といった人間のデータが解析され情報源としてオンライン上に流れるのです。十億以上のソーシャルデータを取得しているFacebookのことを考えてみてください。これが医療情報になるのです。謎の病気にかかっている人が、最適の療法を特定しようと、一番近い「お隣さん」を知るためにオープンリソースを使うこともあるでしょう。
このように、どんどん患者によって医療データが蓄積され、コンピュータによって処理されるほど、「医師要らず」の患者と医師との関係は変わっていくでしょう。医師は処方箋を書くのではなく、経験や同調、親身になるなどコンピュータには再現不可能な部分でアドバイスをするような役割へとなっていくでしょう。
かつて活版印刷機が情報を民主化したように、医療用スマートフォンもヘルスケアを民主化していきます。モバイルシグナルを受信できるようなところならどこでも、データを引き出せるようになります。患者たちは力を授けられたのではありません。解放されたのです。
参照元:WSJ
執 筆:kihachi
iPhone Mania編集部
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