iPhoneのFace IDに特許訴訟〜使えなくなる可能性はどれほどか

iPhoneのFace IDの認証画面

iPhone X以降のほぼすべてのiPhoneに搭載されてきたFace ID(顔認証)が、法廷の争点になりました。ドイツの化学大手BASFが、なりすまし判定の技術をめぐってAppleを訴えました。気になるのは、手元のiPhoneのロック解除がこの先も使えるのかという点です。

日本のiPhoneユーザーへの影響は限定的とみられる

今回の訴訟で日本のiPhoneのFace IDが使えなくなる可能性は低いとみられ、ユーザー側で今すぐ取るべき対応も見当たりません

影響が限られると考える根拠は次の3点です。

  • 米国の裁判で不利な判断が出ても、効力は原則として米国内にとどまる
  • Face IDの停止は実質的な販売停止に近く、差止が認められるハードルは高い
  • 特許紛争は判決まで進まず、途中で条件面の折り合いがつく展開も珍しくない

特に2点目が大きく響きます。Face IDはロック解除だけでなく、Apple Payやパスワードの自動入力まで日常操作の入口を広く担っているためです。パスコードで代替はできますが、使い勝手は大きく落ちます。

Face IDの特許訴訟で争点となる技術

問題になっているのは顔の形を測る仕組みそのものではなく、目の前の相手が本物かどうかを見分ける判定の段階です。

原告と対象特許の概要

海外メディアの報道によると、ドイツの化学大手BASFが、顔認証技術に関する特許をAppleが侵害しているとして米国で提訴しました。特許を保有するのはBASF傘下で顔認証技術を手がけるtrinamiXで、顔認証分野で数百件規模の特許と出願を持つとされます。写真やマスク、シリコン製のレプリカによるなりすましを見分ける技術をめぐり、原告側は訴状の時点で7件の特許について侵害を主張しています。

BASFが訴えを起こしたのは、刑事事件の負担が比較的軽く特許訴訟の進行が速いとされるテキサス州ミッドランドの連邦地方裁判所です。同社は「さらなる侵害の停止」を求めており、販売差止のほか特許使用料や損害賠償の支払いも視野に入ります。Appleはこの件について声明を出していません。

狙われているのはFace IDの心臓部

訴状が対象とするのは、素材や皮膚を検知して本物の人間かどうかを見分ける段階の技術です。顔の形を測るだけでは印刷した写真や精巧なマスクを弾けず、この判定こそが信頼性を支える柱となります。

素材や皮膚の判定が働かなくなれば、顔認証のセキュリティ上の信頼性は大きく揺らぎます。

提訴までなぜ約9年かかったのか

提訴が遅れた理由は明かされていませんが、時期の選び方からは交渉材料としての意味が読み取れます

Face IDを搭載したiPhone Xの登場は2017年で、静止した物体によるなりすましを退ける能力を当初から備えていました。BASF側がiPhone18 Proの発表直前を選び、交渉のテーブルを作る狙いがあった可能性は否定できません。

trinamiXはOLEDパネル向けの画面下埋め込み型顔認証も手がけ、Androidスマートフォンへの搭載実績があります。今回の訴訟は、その特許を対象から外しました。あえて外した点は、逆に将来へ含みを残しているようにも読めます。

原告側は特許の権利行使だけを収益源とする企業ではなく、傘下で顔認証技術を実際に製品化している点も見逃せません。

Face IDは止まるのか Apple Watchの前例

特許紛争でApple製品の機能が止まった前例はありますが、Face IDは切り離しやすさの点で条件が異なります

切り離せる機能と切り離せない機能

Apple Watchの血中酸素ウェルネス機能は特許紛争を受け、2023年12月にSeries 9とUltra 2の米国での販売が数日間止まりました。Appleはその後、同機能を無効にした状態で販売を再開しています。ただしApple Watchの件は輸入差止の手続きによるもので、今回の連邦地裁での訴訟とは道筋が違います

項目Apple Watchの血中酸素ウェルネスiPhoneのFace ID
機能の位置づけ健康計測の付加機能ロック解除と決済の入口
停止のしやすさソフトウェア更新で切り離し可能代替手段の用意が前提
停止した場合の影響機能を外して販売を再開できた実質的な販売停止に近い

切り離しの難易度が段違いのため、仮にAppleが仕様変更で対応する場合でも、パスコードでの運用を前提にした作り直しを迫られる可能性があります。全世界で共通の実装に手を入れるほうが安上がりだとAppleが判断すれば、日本のユーザーへ波及する余地も残ります。

とはいえ、近いうちに顔認証が使えなくなるという話ではありません。iPhone18 Proの発表を控えたこの時期に、購入判断を変えるほどの材料にはならないとみています。念のための備えは、パスコードを確実に思い出せる状態にしておく程度で足ります。

Photo:AppleInsider

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