iPhoneのチップに修正不能な脆弱性〜技術の盗用を巡り訴訟に発展

iPhone11pro

Appleのチップに、ソフトウェア更新では塞げない脆弱性が見つかったと海外メディアが報じました。対象は2018年〜2019年に登場したA12 Bionic世代とA13 Bionic世代で、現在でも利用中のユーザーも少なくないでしょう。この脆弱性を突く手法を巡っては、開発の経緯を争う訴訟にも発展したと報じられています。ただし悪用には端末を直接手にする必要があり、過度に恐れる状況ではなさそうです。

訴訟で表に出た修正不能な脆弱性

今回の脆弱性があるのは、チップが起動時に読み込む「SecureROM」と呼ばれる領域です。ここへUSB経由で細工したデータを送ると、Appleが署名した正規の起動処理より先に任意のコードを実行できるとされています。手法そのものは6月18日に技術文書と実証コードとともに公表されました。

Appleのセキュリティ部門と事前に調整したうえでの開示だったと伝えられています。一方で、報告された問題をAppleが脆弱性として認めなかった事例も直近で明らかになりました。

7月に入り、この技術の出どころを巡って訴訟が起きたと海外メディアが報じています。デジタル鑑識ツールを手がける企業が、社内の機密研究が持ち出されたと主張し、元従業員と転職先の企業を訴えた内容です。あくまで原告側の主張であり、事実として認定された段階ではありません。

対象は2018年〜2019年のチップ搭載機

影響を受けるとされるのは、A12 Bionic・A13 Bionicと、Apple Watch向けのS4・S5を搭載した製品です。いずれも2018年〜2019年に登場した世代で、当時の最新モデルがそのまま該当します。

チップ主な搭載製品
A12 BioniciPhone XS/XS Max/XR、iPad Air(第3世代)、iPad mini(第5世代)、iPad(第8世代)
A13 BioniciPhone11/11 Pro/11 Pro Max、iPhone SE(第2世代)、iPad(第9世代)
S4Apple Watch Series 4
S5Apple Watch Series 5、Apple Watch SE(第1世代)

iPhoneとiPadで対象になるモデル

iPhoneでは、2018年のiPhone XS/XS Max/XRと、2019年のiPhone11シリーズが対象です。

注意したいのがiPhone SE(第2世代)になります。2020年発売と比較的新しいものの、搭載チップはiPhone11と同じA13 Bionicです。発売時期だけで判断すると、対象から外れて見えてしまうでしょう。

iPadも、iPad Air(第3世代)とiPad mini(第5世代)、iPad(第8世代)および(第9世代)が該当します。買い替えの間隔が長い製品ほど、対象機が手元に残っている可能性は高そうです。

Apple Watchも一部が対象に

Apple Watchでは、Series 4とSeries 5、そしてApple Watch SE(第1世代)が対象に入ります。

Apple Watch SE(第1世代)は2020年の製品ながら、中身はSeries 5と同じS5です。名前の新しさと設計の世代が一致していない点には注意したいところでしょう。まずは手元の製品が上の表に当てはまるかを確かめておくと安心できます。

なぜソフトウェア更新で直せないのか

この脆弱性が厄介なのは、Appleがソフトウェア更新を配っても塞げない点にあります。SecureROMのコードは製造の段階でチップへ焼き付けられ、出荷後は書き換えられません。

通常のiOSの脆弱性なら、修正版の配信で解決する話です。しかしSecureROMは更新が届く経路の外側にあり、後から手を入れる方法がありません。つまりこの脆弱性は、対象の製品が使われ続ける限りその製品とともに残り続けることになります。

そのため対策の軸は、更新を待つことではなく悪用の条件を成立させないことへ移るのです。

それでもパスコードの壁は破られていない

ここまで読むと不安になるかもしれませんが、この脆弱性だけで端末の中身が読み出されるわけではありません。鍵を握るのは、Secure Enclaveと呼ばれる独立した領域です。パスコードや暗号化の鍵はここで管理されており、今回の手法では直接の影響を受けないとされています。

試行を重ねるほど待ち時間が延びる仕組みも同じ場所で動いており、短時間の総当たりは通りにくい状態が保たれているようです。

攻撃には端末を手にする必要がある

この手法は、離れた場所から仕掛けられないのが特徴です。端末を物理的に手に入れ、DFUモードと呼ばれる復旧用の状態にしたうえで、USBで専用の小型基板をつなぐ必要があります。

条件がそろえば処理は2秒とかからないとされますが、端末が手元にある限り成立しません。盗難や紛失、修理や売却で端末が他人に渡る場面が、現実的なリスクの境目になりそうです。

再起動すれば元の状態に戻る

もう一つ重要なのは、この攻撃が端末に住み着かない点です。実行結果はメモリ上にとどまり、電源を入れ直せば消えるとされています。一度触られたら永久に汚染される、という性質の問題ではありません。

ただし、起動の最も深い段階を握られること自体は、別の攻撃の足がかりになりうると指摘されています。Secure Enclaveに直接の影響がないことと、安全が保証されていることは別の話です。過度に恐れる必要はなく、端末を手放す場面にだけ注意を向けておけば十分といえるでしょう。

checkm8では無事だった世代に波及

同じ性質の脆弱性は、今回が初めてではありません。2019年には「checkm8」が公表され、A5〜A11搭載製品に更新で直せない脆弱性があると明らかになりました。

対象はiPhone4sからiPhone Xまでで、A12以降は同じ手法が通じない側にいるとみられていたのです。今回その境目が越えられ、A5からA13までが同じ性質の弱点を抱えることになります。チップの世代交代がそのまま安全性の更新にはならない現実を示しているといえるでしょう。

手元の端末で今からできること

対象の製品を使っている場合でも、やるべきことは難しくありません。まず見直したいのがパスコードです。桁数が多いほど総当たりへの耐性は上がるため、6桁以上、できれば英数字を混ぜた組み合わせにしておくと安心できます。

次に備えたいのが、端末が手元を離れる場面です。紛失や盗難に気づいた時点で「探す」から紛失としてマークできるよう、機能を有効にしておきましょう。売却や下取りに出すときは、初期化とサインアウトを最後まで済ませてから手放してください。

物理的に触られない限り成立しない攻撃だからこそ、端末そのものの管理が最も効く対策になります。

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